胚の凍結保存

マウスでは、遺伝子操作や突然変異による莫大な数の系統が次々と作出されてきており、 これらを胚(受精卵)の状態で凍結保存しておくことは、 個体で維持するためのスペースや経費を節約できるばかりでなく、 微生物汚染や事故から守ると共に、 その遺伝形質を半永久的に保存できることになります。 また、凍結保存した胚を融解の後に受容雌へ移植することによって、 必要な数の動物を計画的に必要な時に得ることが可能です。 更に凍結胚の状態で輸送することも出来、 微生物汚染の少ない可能性で分与が出来るなど、多くの利点が考えられます。

凍結方法は、各機関で独自の方法を導入している場合も有りますが、 大きく分けて2種類、緩慢法とガラス化法に区分できます。 緩慢法は比較的濃度の低い(毒性の低い)耐凍剤に胚を浸してからプログラムフリーザーなどを 用いて1時間半以上をかけて行う方法であり、ガラス化法は濃い濃度の耐凍剤を用いる代わりに 非常に短時間(10秒から10分程度)で液体窒素中に直接保存できる方法です。

我々は、EFS30(30%エチレングリコール、21%フィコール、0.35Mol シュークロス、49%PB1)液中に 胚を導入し2分後に液体窒素中へ保存する、簡便でかつ生存率の高い方法を用いています。 マウス以外の実験動物では、ラットやウサギで胚凍結の有効性が報告されています。

我々の実験室では、スナネズミ(Ref.1)およびマストミス(Ref.2)の凍結保存胚から 産仔を得ることに成功しており、 シリアンハムスターについても検討(Ref.3)を重ねていますが、 近年になって成功例も報告されました。 マウスを含め各動物種やその系統、胚の発育時期により凍結操作に伴う感受性が異なることから、 それぞれに適した条件設定の研究が今後も必要と思われます。

参考文献

  1. Successful cryopreservation of Mongolian gerbil embryos by vitrification., Mochida K., Wakayama T., Nakayama K., Takano K., Noguchi Y., Yamamoto Y., Suzuki O., Ogura A. and Matsuda J. Theriogenology, 51, 171 (1999)
  2. Birth of pups by transfer of mastomys embryos cryopreserved by vitrification., Mochida K., Matsuda J., Noguchi Y., Yamamoto Y., Nakayama K., Takano K., Suzuki O. and Ogura A., Biology of Reproduction, 58, Supplement 1 (1998)
  3. Survival and subsequent in vitro development of hamster embryos after exposure to cryoprotectant solutions., Mochida K., Yamamoto Y., Noguchi Y., Takano K., Matsuda J. and Ogura A., Journal of Assisted Reproduction and Genetics, 17, 182-185 (2000)